柊南天コラム
2026.02.06
- #判決
先払い買取現金化業者による裁判の結果報告(第1審)
弁護士の下東です。
「先払い買取現金化業者(ヤミ金類似業者)」の利用者に対する損害賠償請求訴訟(令和6年提訴)について、被告(利用者側)訴訟代理人を務めていたのですが、令和8年1月29日付で無事請求棄却となりました。
先払い買取現金化被害に関する先例としては、モノマネーに対する損害賠償請求訴訟(大阪地方裁判所令和5年(ワ)第2929号)がありますが、本件は、物の売買を仮装していたモノマネーとはやや事案が異なります。
昨今主流となっている商品券の売買を仮装する先払い業者に関する事案であり、業者側のスキームについても、違約金条項がないなど微妙に異なるものとなっています。
本判決では、原告と被告らの契約(本件契約)は、形式的には商品券の売買契約であっても実質的には高金利を伴う金銭消費貸借契約であると認定され、また、本件契約は公序良俗違反により無効とされて原告の請求が棄却されました。
商品券売買を仮装する先払い業者の手口についても、闇金と変わらないことが認められた判決となります。
類似手口による多数の被害者がいる現状に鑑み、本判決の全文を公開いたします。
なお、本判決は一審判決であり今後控訴される可能性があること、他にも訴訟係属中の事案があることから、当事者については全て非公開とさせていただきますことをご了承ください。
先払い業者から支払督促や訴訟を起こされてお困りの場合は、柊南天法律事務所LINE公式アカウントからご相談ください。ご相談は無料です。相談のみで有益なアドバイスができることもありますのでお気軽にご相談ください。
目次
判決主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 第1事件
(1)(主位的請求)被告Aは、原告に対し、 5万円及びこれに対する令和6年10月7日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
(2)(予備的請求)被告Aは、原告に対し、 3万円及びこれに対する令和7年11月11日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2 第2事件
(1)(主位的請求)被告Bは、原告に対し、5万円及びこれに対する令和6年9月12日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
(2)(予備的請求)被告Bは、原告に対し、3万円及びこれに対する令和7年1 1月11日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、第1事件及び第2事件のいずれも、原告が、主位的に、被告らとの間においてそれぞれ商品券の売買契約を締結し、被告らに対して売買代金3万円を支払ったにもかかわらず、被告らが商品券を引き渡さないため同契約を解除したなどと主張して、被告らに対し、債務不履行による契約解除に伴う損害賠償請求権に基づき、それぞれ損害賠償金5万円(履行利益として商品券の券面額相当額)及びこれに対する遅延損害金の支払を求め、予備的に、被告らとの間においてそれぞれ無利息の期限の定めのない金銭消費貸借契約を締結したと主張して、被告らに対し、貸金返還請求権に基づき、それぞれ貸金3万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。
被告らは、当事者間の契約は商品券の売買契約ではなく、違法な高金利による金銭消費貸借契約であって無効であるなどと主張して争っている。
1 前提となる事実
以下の事実は、当事者間に争いがないか、証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる。
(1) 原告による商品券等の買取り
原告は、古物商の許可を受けた株式会社であり、「●●チケット」と題するウェブサイト(「本件ウェブサイト」)を運営し、同ウェブサイトの「買取申請お申し込みフォーム」(「本件フォーム」)を通じ、商品券等の「買取り」の申請を受け付けている(この商品券等の「買取り」が実態としても売買であるのか、形式的には売買を装っているものの実態は金銭消費貸借であるのかについては、当事者間に争いがある。以下、前提となる事実における「買取り」「売買」等の表現は、いずれもそのような前提で用いる。)。本件フォームを利用するに当たっては、原告と顧客との間における商品売買契約を締結するための諸手続を定めたものであるとされる利用規約(「本件利用規約」)に同意する必要がある。(甲6)
本件フォームにおいては、顧客は、「希望の買取プラン」として「先払い買取:買取率60%」又は「郵送買取:買取率90%」のいずれかを選択することができ、査定を求める商品の券種や額面額、枚数等を入力することになっている。(甲6、乙8)
また、買取りが成立する際には、原告と顧客との間において、「商品売買契約書」と題する電子契約書(「本件電子契約書」)が作成される。本件電子契約書においては、「本ウェブサイト」上で表示されている商品について、原告が事前に「本ウェブサイト」上で表示した代金で買い取ることを顧客が申請した場合には、その時点で原告と当該顧客との間で売買契約が成立すること、原告は売買契約の成立後速やかに顧客に対して代金を送金すること、商品の所有権は当該振込みと同時に原告に移転すること、顧客は原告担当者と取り決めた日時までにレターパック等の所定の方法により商品を原告に送付して引き渡すこと、送付先は「本ウェブサイト」上で原告が指定した札幌市内の住所となることなどが定められている(なお、「本ウェブサイト」が何を指すかは必ずしも明らかではない。)。(甲イ1、ロ1)
⑵ 原告と被告Aとの取引(甲イ1、甲2、3)
ア 被告Aは、令和5年12月21日、本件利用規約に同意した上、本件フォームから商品券等の「先払い買取」の申請をし、その後、原告との間において、主にLINEを通じ、概要、以下のとおりのやり取りをした。
(ア) 原告は、買取りを希望する商品券等の写真の送信のほか、身分証明書、健康保険証及び給与明細(直近2か月分)の写真並びにIDセルフィー(顔写真付き身分証明書を自らの顔の横に添えて撮影した写真)の送信を求めるとともに、買取商品については買取日から被告Aの指定する1か月以内の指定曜日までに原告宛てに送付することを求めた。これに対し、被告Aは、運転免許証、健康保険証及び給与明細の写真並びにIDセルフィーを送信したほか、券面額が1000円の全国百貨店共通商品券(「共通商品券」)1枚及び共通商品券様のもの多数枚が撮影された写真を送信した。
(イ) 次いで、原告は、「お客様情報」として、氏名、住所等のほか、「居住種類」、勤務先住所、職業、勤続年数、給与支払日、賞与、健康保険加入状況、雇用形態等の回答を求め、更に、利用中の「先払いサービス、チケット買取、ファクタリング、消費者金融」等のサービス名やそれらに係る支払金額、債務整理や自己破産の経歴等の回答を求めるとともに、申告漏れや虚偽申告があった場合には審査に影響を及ぼす可能性がある旨を伝え、被告Aは、これらに回答した。
(ウ) 原告は、被告Aからの回答を受け、本人確認のためのビデオ通話を経た後、「審査の結果、お客様の商品を即日買取させて頂きます。本日の査定買取価格30,000円 ※上記金額にご了承頂きました場合にのみ、下記ご郵送を頂けるお日にちのご記入をお願い致します。商品発送期日令和 年 月 日 15時迄 買取商品 全国百貨店共通商品券10,000円×5枚」などと伝え、被告Aは、「商品発送期日 令和6年1月19日 15時迄」などと回答した。
(エ) その後、原告は、「●●チケットではサービスの不正利用防止を呼びかけさせて頂いております。チケット売買目的ではなく実際にお持ちでない(中略)商品の買取を依頼される。アカウントを複数作成し、他人の名義を名乗り、偽りの申し込み、審査を受ける、金融目的等のご利用。(中略)弊社では買取目的以外でのご利用は一切禁止させて頂いております。これらは利用規約並びに、法律に抵触する恐れも御座いますのであらかじめご注意ください。」などの注意事項の確認を求めた上、電子契約書の作成を求めるなどし、被告Aは、本件電子契約書について電子署名等の手続をして同契約書を作成した(これらの経過を経て締結された契約を「本件契約①」)。
(オ) これを受け、原告は、被告Aに対し、その指定した預金口座に3万円を振込送金するとともに、被告Aが指定した商品送付期限の前日に再度連絡する旨を伝えた。
イ 原告は、令和6年1月18日、被告Aに対し、LINEを通じ、商品送付期限が翌日15時までであるとした上、商品の送付先として札幌市●●郵便局留めを指定し、レターパックプラスを利用すべきことを伝えたほか、「※チケットの紛失、汚損、破損等により代行業者をご利用のお客様は、振込明細と合わせて、お振込の確認が取れる口座履歴、請求書のご提示もお願い致します。」と伝えた。しかし、その後、被告Aが原告に対して商品券を送付することはなかった。
(3) 原告と被告Bとの取引(甲ロ1、甲4,5)
ア 被告Bは、令和5年12月21日、本件利用規約に同意した上、本件フォームから商品券等の「先払い買取」の申請をし、その後、原告との間において、主にLINEを通じ、概要、以下のとおりのやり取りをした。
(ア) 原告は、上記(2)ア(ア)と同様のメッセージを送信し、被告Bは、運転免許証、健康保険証及び給与明細の写真並びにIDセルフィーを送信したほか、券面額が1000円のVJAギフトカード 2枚又は2束が撮影された写真(やや画像が不鮮明なもの)を送信した。
(イ) 次いで、原告は、被告Bに対し、上記(2)ア(イ)と同様のメッセージを送信し、被告Bがこれらに回答すると、本人確認のためのビデオ通話を経て同(ウ)と同様のメッセージ(ただし、「買取商品」は「VISAギフトカード10,000 円×5枚」)を送信し、被告Bは、「商品発送期日 令和5年1月9日 15時迄」などと回答した。その後、原告は、被告Bに対し、同(エ)と同様のメッセージを送信し、被告Bは、本件電子契約書を作成した(これらの経過を経て締結された契約を「本件契約②」。本件契約①と併せて「本件契約」)。
(ウ) これを受け、原告は、被告Bに対し、その指定した預金口座に3万円を振込送金するとともに、上記(2)ア(オ)と同様のメッセージを送信した。
イ 原告は、令和6年1月8日、被告Bに対し、LINEを通じ、上記(2)イと同様のメッセージ(ただし、商品の送付先は札幌市●●所在のビルの2階)を送信した。しかし、その後、被告Bが原告に対して商品券を送付することはなかった。
(4) 本件訴訟提起後の経過
原告は、令和7年9月22日、被告らに対し、本件契約が売買契約であることを前提に、本件契約をいずれも解除する旨の意思表示をした。また、原告は、同年10月9日、被告らに対し、本件契約がいずれも金銭消費貸借契約であることを前提に、本件契約に基づき、それぞれ貸金3万円の返還を催告した。(甲10、11)
2 争点についての当事者の主張
本件においては、原告と被告らとの間のやり取り等に関する外形的な事実関係には争いがない。主な争点は、主位的請求に関し、① 原告と被告らとの間において成立した本件契約が商品券の売買契約であるか、金銭消費貸借契約であるか(契約の法的性質)、予備的請求に関し、② 本件契約が金銭消費貸借契約であるとして、利息の特約があるか否か(利息の有無)、③ 本件契約が有利息の金銭消費貸借契約であるとして、公序良俗に反するものとして無効であるか(公序良俗違反)であり、これらの点についての当事者の主張は以下のとおりである。
(1) 争点①(契約の法的性質)について
(原告の主張)
本件契約は売買契約の条件を定める本件電子契約書によって締結に至っている上、その締結に至る経過を見ても、原告は、被告らからの商品券の買取申請を受け、本人確認等をして買取金額を提示するとともに、原告からの支払期日及び被告らからの商品券の送付期限に関するやり取りなどをしていたのであって、原告及び被告らのいずれも商品券を売買する意思があった。また、原告が被告らに対して3万円又は5万円の支払を請求した事実も一切ないのであるから、本件契約は、金銭消費貸借契約ではなく売買契約であることが明らかである。
なお、原告は、被告らに対して勤務先や給与明細等の情報を求めたが、これらは、売主である被告らの本人確認のほか、商品が送付されなかった際の損害賠償の場面における支払能力を判断するために必要な情報であった。
(被告らの主張)
原告は、目的物であるとされる商品券を慎重に確認することもなく、その券面額や枚数さえ確認しておらず、契約成立時には商品券の送付先も伝えていなかった一方で、被告らの支払能力に強い関心を有し、それらに関する情報を聴取して与信審査をしていた。他方、被告らにおいても、原告がいわゆる先払い業者(商品の買取りを仮装して商品代金相当額を先払いという形で貸し付けるサービスを提供する業者)であると認識しており、そもそも実際に商品券を所持していなかった。
これらの当事者の意思や本件契約の経済的実態その他の事情に鑑みれば、本件契約は、商品券等の買取り(売買契約)を仮装しているものの、目的物の特定も引渡しの合意もないものであり、実質的には、3万円を貸し付け、「代行業者」を介して購入させた商品券によって5万円の返済をさせる金銭消費貸借契約であったというべきである。
⑵ 争点②(利息の有無)、同③(公序良俗違反)について
(原告の主張)
LINEにおけるやり取りや本件電子契約書等において、原告と被告らとの間において利息の合意がされたことはなく、仮に本件契約が金銭消費貸借契約であるとすれば、それは利息及び期限の定めのないものであって、公序良俗に違反するものではない。
(被告らの主張)
本件契約は金銭消費貸借契約であるところ、商品券買取代金名目で交付された金銭が元本であり、商品券の送付期限とされた日が約定弁済日(被告A関係では令和6年1月19日、被告B関係では同月9日)であって、原告に対して送付することを要する商品券の券面額 (5万円)から元金 (3万円)を控除した金額 (2万円)が利息とみなされる。
そして、原告は、貸金業登録を受けることなく違法に業として金銭の貸付けをし、かつ、違法な高金利の利息(被告A関係では年利811 %、被告B関係では年利1216 %)の合意をしているのであって、このような刑事罰の対象となるような金銭消費貸借契約は、公序良俗に違反するものとして無効であるというべきである。
第3 当裁判所の判断
1 争点①(契約の法的性質)について
(1) 前提となる事実のとおり、本件契約は、いずれも、被告らが、商品売買契約の締結手続について定めたものとされる本件利用規約の下において、商品券等の買取りの申請を受け付けるためのものとされる本件フォームを通じて、原告に対して商品券の「先払い買取」を申請し、買取りの対象となるものとされる商品券の写真(画像)を送信し、それに対して原告が「査定買取価格」を提示するなどした上、原告及び被告らが「商品売買契約書」と題する本件電子契約書を作成するという経過を経て成立したものである。また、原告は、被告らに対して電子契約書の作成を求めるに当たり、実際に所持していない商品券の買取りを求めることや金融目的で利用することを禁止している旨の注意事項の確認を求めていた。このような経過は、外形的には、本件契約が商品券を目的物とする売買契約であることを示すものであり、別異に解すべき特段の事情がない限りは、本件契約は売買契約であったものといえる。
(2) しかし、本件においては、以下のとおり、本件契約が売買契約であることと相容れず、又は少なくとも整合し難い事情が複数存在している。
ア まず、原告は、被告らに対し、買取りの対象となる商品券の写真を送信させているものの、被告Aが送信したのは券面額1000円の共通商品券1枚及び共通商品券様のもの多数枚が撮影された写真であり、被告Bが送信したのは券面額1000円のVJAギフトカード2枚又は2束が撮影されたやや不鮮明な写真であった(前提となる事実(2)ア(ア)、(3) ア(ア))。商品券の買取りに当たっては、(他の古物と異なり、一般に、その状態が買取りの可否や査定額に影響することは必ずしも多くはないとしても、)券面額及び枚数は査定額を決定するに当たって不可欠な情報であるにもかかわらず、原告は、被告らが少なくとも枚数が不明な商品券の写真を送信したのに対し、特に追加の写真の提出等を求めていない。しかも、被告らが送信した写真は上記のようなものであったにもかかわらず、原告は、被告Aから買い取る商品券については券面額1万円の共通商品券5枚と、被告Bから買い取る商品券については券面額1万円のVISAギフトカード5枚と、それぞれ特定しており、(「VJAギフトカード」と「VISAギフトカード」とは同ーのものを指すものと理解し得るとしても、)送信された写真の商品券と券面額も枚数も全く一致していない(同(2)ア(ウ)、(3)ア(イ))。また、原告は、本件各訴状において、売買の目的物について、被告A関係では券面額1000円の共通商品券50枚と、被告B関係では券面額1000円のVJAギフトカード50枚と、それぞれ主張しており、少なくとも被告B関係ではその枚数が写真の商品券の枚数と一致していないことが明らかである。
これらの経過に鑑みれば、原告は、売買の目的物(買取査定の対象)であるはずの商品券の券面額や枚数についてほとんど審査しておらず、ひいては、それらについて関心を有していなかったものと推認される。なお、原告は、本件訴訟提起前に被告らを含む22名の顧客らに対して提起した本件同様の訴訟(訴え取下げにより終了)において、被告ら以外の顧客らとの間における売買の目的物も、1名の顧客を除き、いずれも券面額1000円の商品券50枚であると主張していた(乙6)。しかし、そのような多数の顧客らからの買取対象の商品券の券面額及び枚数がいずれも同じであったとはにわかに考え難く、被告らについてと同様、顧客らが送信した写真とは無関係に特定したものと考えられるのであって、このことは、上記推認を裏付けるものといえる(なお、上記1名の顧客との間における売買の目的物は券面額5000円の商品券10枚と主張しており、券面額の合計は他の顧客らと同様に5万円である。)。
イ 他方、被告らが原告に対して送信した商品券の写真は、インターネット上で検索して取得した画像であると認められ(乙7の1~6)、仮に被告らが商品券を実際に所持していたのであれば、あえてそのような画像をインターネット上から取得して原告に送信する理由は見出し難い。また、上記アのとおり、原告が特定した買取対象の商品券は被告らから送信した写真の商品券と枚数も券面額も異なるものであったにもかかわらず、被告らはその点について何ら指摘することなく手続を進めている。これらの事情に鑑みれば、被告らは、いずれも、本件契約当時、実際には商品券を所持していなかったものと認められる。
ウ 加えて、原告と被告らとの間においては、形式的には、被告らが現実に売買の目的物である商品券を所持していることを前提にやり取りが進められ、かつ、原告は契約成立後直ちに買取金額とされた金額を支払っているにもかかわらず、原告は、被告らに対し、契約成立日から1か月以内に商品券を送付することを求めていた(前提となる事実(2)ア(ア)、(3)ア(ア))。また、原告は、契約成立時点においては、被告らに対し、商品券の送付先を具体的に指定しておらず、送付期限とされた日の前日に初めて具体的に指定しており、さらに、その際には、定型文により、商品券を「紛失、汚損、破損等」した場合のために「代行業者」の利用の案内をしている(同(1) 、(2) イ、(3)イ。なお、乙12参照)。
売主である顧客が実際に所持している商品券を売買するのであれば、買主である原告としては、顧客が当該商品券を自ら使用したり他の業者に売却したりし、引渡しがされなくなるリスクを可及的に低減するため、速やかにその引渡しを求めるのが合理的であり、他方で、顧客が商品券の引渡しまでの間に当該商品券を紛失等することを想定し、そのための対応策(「代行業者」との調整等)をあらかじめ準備し、それを定型的に顧客に案内するなどというのはおよそ考え難い。そうすると、原告において、被告らに対し、契約成立後速やかに商品券を送付することを求めず、送付期限の前日まで送付先の指定さえせず、他方で、同日に「代行業者」の案内をしたのは、そもそも被告らが実際に商品券を所持していないことを前提としていたためであると推認される。
エ さらに、本件において被告らが申請した「先払い買取」は、基本的に券面額の60%で商品券等を買い取るというものであり、実際に、原告は、被告らに対して、買取りの対象が券面額1万円の商品券5枚であることを前提として買取査定価格として3万円を提示し、被告らもその金額を了承していた(前提となる事実(1)、(2)ア(ウ)、(3)ア(イ))。しかし、共通商品券やVJAギフトカード等の流通性の高い商品券については、実店舗を構えて対面で取引をする一般の買取業者であればおおむね9割以上の価格で買い取られているのであって、そのような商品券を実際に所持している者が真実その買取りを求めるに当たり、あえて券面額の6割という一般的な買取価格よりも著しく低額な価格による買取りを求めるなどというのは、基本的には想定し難い(甲6、乙3、7参照)。この点、原告の提供する「先払い買取」サービスは、実店舗を訪れることなく即日買取代金の支払を受けることができるというものであるから、そのようなサービスの利点が買取価格における不利益を上回るという例が皆無であるとはいえないとしても、少なくとも、買取業者において、そのようなニーズが相当数あるものと想定するのは合理的とはいえず、そのような極めてまれなニーズのために「先払い買取」というサービス類型を設け、それに応じた業務フロー等を相応のコストを掛けて準備するなどというのは、およそ考え難いものといわざるを得ない。このような事情に鑑みれば、そもそも原告においても、実際に商品券を所持している顧客からの買取りを想定したものとして「先払い買取」というサービスを提供していたわけではなかったものと推認される。
オ このほか、原告は、被告らとの契約締結に当たり、直近2か月分の給与、「居住種類」(住居が自己所有物件か賃借物件かなどを尋ねる趣旨と解される。)、勤続年数、給与支払日、賞与等の情報を求めていたところ(前提となる事実(2)ア(ア)(イ)、(3)ア(ア)(イ))、本件契約が売買契約であるとすれば、売主である被告らの基本的な義務は目的物である商品券の引渡しなのであるから、(被告らの住所、氏名等や勤務先住所、職業等については本人確認のために必要であるとしても(古物営業法15条1項1号等参照))、被告らの給与等の収入や資力に関する情報は必ずしも必要ではないものといえる。それにもかかわらず、原告は、被告らに対して上記のような情報について回答を求めていたのみならず、他の金融サービスの利用状況のほか、債務整理や自己破産の経歴等の回答を求め、それらに関する申告漏れ等が審査に影響を及ぼす可能性があるとまで注意喚起しており(前提となる事実(2)ア(イ)、(3)ア(イ))、被告らの支払能力に強い関心を有していたことが明らかである。この点、たしかに、原告からの支払後に顧客から商品券が送付されないリスクもあり、そのようなリスクが現実化した場合には損害賠償請求の問題となり得るため、その回収可能性の判断のために顧客の支払能力を問題にすることがおよそ不合理であるとはいえない。しかし、商品券が送付されないリスクを問題にするのであれば、まずはそのリスクを低減するための措置を講じるのが合理的であるところ、上記ア、ウのとおり、原告は、売主である被告らが実際に商品券を所持しているか否かをほとんど確認しておらず、かつ、被告らに対して商品券の速やかな引渡しも求めていない(商品券の所持を確認する方法としては、例えば、「IDセルフィー」と同様に商品券を被告らの顔に添えて写真撮影をさせたり、ビデオ通話の際に商品券を示させたりすることも可能であるところ、原告はそのような確認を何らしていない。)。そうすると、被告らの支払能力に対する原告の関心の理由が、商品券が送付されないリスクに起因するものであったとは考えられない。
(3) 上記(2)アからエまでの各事情に鑑みれば、原告は、そもそも被告らが実際に商品券を所持していないこと又はその可能性があることを認識していたというにとどまらず、むしろ顧客らが実際に商品券を所持していないことを前提として、「先払い買取」のサービスを提供していたものと推認される。そして、これに加え、原告が、同オのとおり被告らの支払能力に強い関心を有し、その点についての審査を経た上で、同ア、エのとおり、被告らが送信した商品券の写真とは無関係に、後日5万円分の商品券を送付させる前提で3万円の支払を提示していたこと、更には、原告においても「チケット買取」がファクタリングや消費者金融等と同様に金融サービスであると認識していたこと(前提となる事実(2)ア(イ)、(3)ア(イ))などにも鑑みれば、原告においては、被告らから商品券の所有権の移転を受けてこれに対する代金を支払うという意思があったものとは認められず、むしろ、商品券の売買という形式を装い、被告らの支払能力を踏まえた金銭の貸付けをする意思であったものと認められ、このことは、被告らについても同様である(乙4、5、7の1~6参照)。
ところで、消費貸借契約は、「当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ること」によって効力を生ずるなどとされているところ(民法587条等)、本件契約においては、形式的には、送付期限とされた日までに被告らが原告に対して商品券を送付して引き渡すことが合意されており、他方で、被告らから原告に対して金銭の支払がされることは予定されていなかった。もっとも、上記各事情に鑑みれば、商品券の引渡しは、融資を受けた金額の金銭を返還する方法として、又は金銭の返還に代わるものとして、あらかじめ当事者間において合意されたものであるといえるから、被告らが原告から受領したものと同種のもの(金銭)を返還することが予定されていなかったとしても、そのことは、本件契約が金銭消費貸借契約であることを否定するものとはいえない(なお、原告と「代行業者」との関係や合意内容、両者間における実際の商品券の授受の有無等によっては、仮に被告らが「代行業者」を利用していた場合には、原告に対する金銭の返還の方法として、「代行業者」に対して支払をする旨の合意がされたものとみる余地もあるものと考えられる。)。すなわち、本件契約は、いずれも、上記(1)のような外形的な事実経過にかかわらず、商品券の売買契約ではなく、金銭消費貸借であったものと認められる。
(4) なお、被告らとは異なる顧客と原告との間における「先払い買取」の契約において、契約締結時点において顧客が実際に商品券を所持しており、送付期限とされた日までに顧客が原告に対して実際に商品券を引き渡した事例があるか否かは、明らかではない。もっとも、(上記(2) のような事情に鑑みれば、基本的にはそのような事例は想定し難いものの、)仮にそのような事例が存在し、実際の商品券の所持及び引渡しという事実を前提に、原告と当該顧客との間の具体的なやり取りをも踏まえ、少なくとも顧客においては真実商品券を売買する意思があったと認められるのであれば、本件電子契約書の形式的な記載事項等にも鑑み、原告と当該顧客との間に成立した契約が売買契約であると評価される余地もあり得るが、それはあくまで当該事例における具体的な事実関係を踏まえた判断にすぎず、本件契約の法的性質の判断を左右するものではない。
2 争点②(利息の有無)、争点③(公序良俗違反)について
(1) 上記1のとおり、本件契約はいずれも金銭消費貸借契約であると認められるところ、本件契約においては、原告からの貸付金額が3万円であったのに対し、被告らは5万円の商品券を引き渡さなければならないとされており、これは、5万円の金銭を返還するための方法又はその返還に代わるものにすぎないから、原告と被告らとの間においては、返済額である5万円から元金額である3万円を控除した2万円を利息として支払う旨の合意がされていたものというべきである(なお、みなし利息について利息制限法3条本文、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(「出資法」) 5条の4第4項参照)。また、その返済期日は、商品券の送付期限とされていた日であるから、被告A関係については令和6年1月19日(貸付日から数えて30日目)、被告B関係については同月9日(同じく20日目)と合意されていたものと認められる(前提となる事実(2) ア(ウ)、 (3)ア(イ))。
(2) これを前提とすると、原告と被告Aとの間の本件契約①における利息の利率は年811%以上 (2万円/3万円/30日×365日=811.1%)、原告と被告Bとの間の本件契約②における利息の利率は年1216%以上 (2万円/3万円/20日×365日=1216.7%) となり、利息制限法上の制限利率はもちろん、出資法5条によって刑事罰の対象とされている利率(年109. 5 %)をも大幅に超過する超高金利である。また、上記1によれば、原告は、業として貸付けを行っていたものというべきであるところ、原告は貸金業者としての登録を受けていなかったものと認められる(弁論の全趣旨)。すなわち、原告による被告らに対する貸付けは、貸金業法47条2号による刑事罰の対象(無登録貸金営業)となり得るとともに、出資法5条3項による処罰の対象(高金利の利息の契約)ともなり得るものであって(いずれも当時の法定刑は10年以下の懲役若しくは3000万円以下の罰金又はこれらの併科)、その違法性の程度は大きいものというべきである。
そして、原告が本件契約について形式的には商品券の買取りという体裁を取ることとしたのは、これらの貸金業法や出資法による規制を免れるためであったものと合理的に推認されるのであって、そのような事情にも鑑みれば、本件契約における貸付けの元金額及び利息額がいずれも比較的低額であることを踏まえても、本件契約はいずれも公序良俗に反するものとして無効であるというべきである。
3 結論
以上のとおりであって、本件契約は売買契約であると認められないから、原告の被告らに対する主位的請求はいずれも全て理由がなく、また、金銭消費貸借契約である本件契約は違法な超高金利の利息の合意を伴うものであって公序良俗に反して無効であるから、原告の被告らに対する予備的請求についても、いずれも全て理由がない。