恐喝罪

2025.10.01

  • #暴力事件

恐喝罪

恐喝罪に関する条文

(恐喝)
刑法第249条
第1項 人を恐喝して財物を交付させた者は、10年以下の拘禁刑に処する。
第2項 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
(未遂罪)
刑法第250条 この章の罪の未遂は、罰する。

成立要件

恐喝罪は、「恐喝」行為により、財物を「交付させた」(刑法第249条1項)または、「財産上不法の利益を得、または他人にこれを得させた」(同条2項)場合に成立します。

「恐喝」とは、人を畏怖させるに足りる、反抗を抑圧するに至らない程度の「脅迫」または「暴行」を加えて、財物等を要求することです。例えば、カツアゲのような「金を払わないと殴るぞ」と脅かし、金銭を要求する行為です。

また、恐喝行為を行ったが、相手が要求に従わなかった場合には恐喝未遂罪となります。例えば、「金を払わないと殴るぞ」と脅かしたが、相手が金銭の交付をしなかった場合です。

「脅迫」とは、相手を畏怖させるに足りる害悪の告知を言います。例えば、「痛い目にあわせるぞ」、「家族にばらすぞ」等と言って脅かすことです。

「暴行」とは、人の身体に対する不法な有形力(物理力)の行使をいいます。これは相手を畏怖させる性質である限り、直接に相手の身体に加える必要はなく、物や第三者に暴行を加える場合でもこれにあたり得ます。例えば、相手を突き飛ばす行為、相手のそばにある物を壊す行為がこれにあたります。なお、ナイフを突きつける等の行為は、相手の反抗を抑圧する程度の暴行と判断され、より重い「強盗罪(刑法第236条)」に該当する場合があります。

「交付させた」とは、相手が自ら財物を交付した場合のほか、畏怖して黙認していることを利用して、財物を奪う行為も含みます。例えば、「痛い目にあわすぞ」と言って、相手が怖くて動けなくなっているところで、ポケットから財布を奪うような行為です。

「財産上不法の利益を得または他人にこれを得させた」とは、恐喝行為に基づく被害者の財産的処分行為によって行為者または行為者と一定の関係にある第三者が、財産上の利益を取得することです。例えば、自身や第三者の借金を免除させるような行為です。

具体的な事案

恐喝罪は、「脅迫」、「暴行」の範囲が広いため、本人の意図せずに恐喝罪に当たることがあり、成立の判断が難しい場合があります。

以下、恐喝罪(恐喝未遂罪)に当たる具体的な事例を見てみましょう。

恐喝罪(恐喝未遂罪)に当たる事例

路上で被害者を突き飛ばし、「言うことを聞かないと怪我させるぞ!」と言って、金銭を交付させた。

暴行、脅迫を用いて金銭を要求しているので、恐喝罪にあたります。

飲食店で法外な料金を請求し、「金を払うまで帰さないぞ!!」とすごんだ。

脅迫により、法外な料金を要求しているので恐喝行為にあたります。客が支払えば恐喝罪になり、支払わなくても恐喝未遂罪にあたります。

共犯の女性と性交等した男性に対して、「俺の女に手を出したな。家族にばらされたくなければ100万円を払え。」と言った。

言われた男性は、家族にばれることに恐怖を感じることが普通です。脅迫により、金銭を要求しているので、恐喝行為にあたります。金銭を支払えば恐喝罪になり、支払わなくても恐喝未遂罪にあたります。

「借金を返さないと、どうなるか知らないぞ。」と言って、貸していた100万円を取り立てた。

脅迫行為は、行為者の立場等と相まって、恐怖を感じさせる内容でも成立します。借金を返さないことで言われた人が危害を加えられると感じ、恐怖を感じる状況であれば、脅迫行為となります。脅迫行為により、100万円を取得しているので恐喝罪にあたります。たとえ、借金の催促(権利の行使)であっても、その行為が恐喝行為であれば、恐喝罪は成立します。

大家から家賃の督促をされたが、大家の胸ぐらをつかみ、「今後取り立てをしてきたら、酷い目にあわせる」と脅し、賃料の支払いをしなかった。

暴行、脅迫により、賃料支払いを免れているので、恐喝罪にあたります。

不起訴処分獲得に向けた弁護活動

2024年の検察統計調査によれば、恐喝罪の起訴率は26.5%であり、直近5年間でも概ね同水準となっています。つまり、恐喝罪では約4件に1件が不起訴となっており、適切な弁護活動によって不起訴となる可能性は十分にあります。

認め事件(被疑事実を認めている事件)の場合

不起訴処分の可能性を高めるうえで最も重要なのは、被害者との示談成立です。示談によって被害者の処罰感情が和らぎ、被害が回復されたと評価されれば、検察官が不起訴処分とする可能性が高まります。

弁護士は、まず事実関係を整理したうえで被害者と連絡を取り、示談交渉を行います。示談の内容には、本人が真摯に反省して謝罪していること、慰謝料等の支払い、被害者が本人を許し、処罰を求めていないこと等を盛り込みます。

また、勤務実績や社会的立場、家庭事情に関する証拠、反省の程度や再犯可能性が低いことなどを示す客観的証拠を収集します。これらの資料をもとに検察官と協議し、必要に応じて意見書を提出します。検察官に「社会内で更生が可能である」という印象を与え、処罰の必要がないと判断されれば、不起訴処分の可能性が高まります。

否認事件(被疑事実を認めていない事件)の場合

本人からの聞き取りを十分に行ったうえで、現場の確認や被害者等の事件関係者からの聴取、被害者とのメールやSNS等でのやりとり、防犯カメラ映像の保全などを通じて、本人にとって有利な証拠を集めることが不起訴処分獲得のために重要です。

こうした活動により、暴行、脅迫の事実が存在しないこと、恐喝行為は複数人で行われる場面も多く、こういった場合には、恐喝行為の共謀がなかったことやそもそも恐喝行為に参加していなかった等の主張をしていきます。

また、捜査の初期段階で、本人が恐喝行為を行ったことを窺わせるような内容の供述調書を取られてしまうと、その後にその内容を否定するのが難しくなります。そのため、初期捜査の段階で本人にとって不利な証拠を作られないようにアドバイス等をします。

さらに、捜査機関の手続きに違法や不備がないかを検討し、違法収集証拠の排除(証拠物の収集過程に違法があれば、証拠として認められない)や手続違反の指摘を行うこともあります。

いずれの場合でも、早期に弁護士が関与し、証拠保全や交渉を開始することが不起訴処分獲得の鍵となります。

起訴後の弁護活動

起訴後の弁護活動のポイントは、保釈請求公判の準備です。

保釈請求は、起訴後に勾留状態から解放させるために行う手続きです。ご本人の心身への負担を軽減するために原則として必ず行います。逮捕時から起算すると3週間以上身体拘束されていることが多く、心身への負担は甚大ですから、早期にこれを解く必要があります。

保釈されれば自宅にて生活できますので、裁判に向けた準備もしやすくなります。

執行猶予判決を目指すには、勾留されている状態で「真面目に再出発をしたい」と伝えるよりも、現に社会復帰して真面目に励んでいる状況を裁判官に伝える方が説得力を持ちます。

保釈を認めさせるために、法令に規定された保釈されない事由がないこと(刑事訴訟法第89条)、勾留する必要性がないこと(刑事訴訟法第90条)等を検討し、保釈請求書を提出します。

公判の準備として重要なのは、証拠資料等の検討綿密な打ち合わせです。

犯罪の成立を争うのか、成立は争わずに情状面をアピールして執行猶予判決の獲得を目指すのかなど、具体的な防御方針を定めて対応していきます。

まとめ

恐喝罪は、行為の態様や状況によって成立の可否が分かれ、未遂でも処罰されうる繊細な犯罪類型です。暴行、脅迫の行為に該当するか等、法的評価には専門的な検討が必要です。

また、恐喝罪は不起訴となる可能性も十分にあるため、早期に弁護士へ相談し、証拠保全や示談交渉、公判準備などを適切に進めることが、本人の権利保護と社会復帰に直結します。

刑事事件においては、事実関係の整理と法的主張の構築、そして人間的な背景の理解と表現が不可欠です。弁護士と連携しながら、冷静かつ戦略的に対応することが、最良の結果を導くことになります。