暴行罪

2025.09.17

  • #暴力事件

暴行罪

暴行罪に関する条文

(暴行)
刑法第208条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

成立要件

暴行罪は、人の身体に対して暴行を加えた場合に成立します。
「暴行」とは、人の身体に対して不法な有形力を行使することを指します。有形力の行使は、人の身体に向けられたものであれば、必ずしも身体に直接接触しなくても該当します。たとえば、殴る・蹴る・押すなどの典型的な行為のほか、胸ぐらをつかむ等の行為も該当する場合があります。


また、「暴行」によって人が怪我をするなどして生理的機能に障害を与えた場合には、より重い罪である「傷害罪(刑法第204条)」に該当し、暴行罪には該当しません。

具体的事例

暴行罪は「暴行」の範囲が広いため、本人の意図せずに暴行罪に当たることがあり、成立の判断が難しい場合があります。
以下、暴行罪に当たる事例と当たらない事例を見てみましょう。

(1)暴行罪に当たる事例

  • 衣服を無理に引っ張った。
  • 相手を黙らせようとして、手で口をふさいだ。
  • 相手を驚かせるつもりで、相手の足元を狙って石を投げつけたが、相手に当たらなかった。
  • 狭い室内で金属バットを振り回したが、相手にバットが当たっていない。

接触を伴う行為、または接触がなくても他人に向けられた怪我の危険性がある行為は、暴行罪に当たります。

(2)暴行罪に当たらない事例

相手に暴言を吐いた


暴言を吐く行為は「有形力の行使」に当たらず、暴行罪は成立しません。なお、侮辱罪(刑法第231条)や名誉毀損罪(刑法第230条1項)に該当する場合があります。


電車内で痴漢を捕まえるために腕を強く握った


現行犯逮捕(刑事訴訟法第213条)に当たる適法な行為のため、「不法な有形力の行使」には当たらず、暴行罪は成立しません。


相手が急に殴りかかってきたため、自身を守る目的でやむなく相手を突き飛ばした


正当防衛(刑法第36条1項)が成立し、原則として暴行罪は成立しません。ただし、突き飛ばした程度が防衛の程度を超えた場合は過剰防衛となり(同条2項)、暴行罪が成立することがあります。

不起訴処分獲得に向けた弁護活動

2024年の検察統計調査によれば、暴行罪の起訴率は27.6%であり、直近5年間でも概ね同水準となっています。
つまり、暴行罪では約4件に1件が不起訴となっており、適切な弁護活動によって不起訴となる可能性は十分にあります。

認め事件(被疑事実を認めている事件)の場合

不起訴処分の可能性を高めるうえで最も重要なのは、被害者との示談成立です。示談によって被害者の処罰感情が和らぎ、被害が回復されたと評価されれば、検察官が不起訴処分とする可能性が高まります。

弁護士は、まず事実関係を整理したうえで被害者と連絡を取り、示談交渉を行います。示談の内容には、本人が真摯に反省して謝罪していること、慰謝料等の支払い、被害者が本人を許し、処罰を求めていないこと等を盛り込みます。


また、勤務実績や社会的立場、家庭事情に関する証拠、反省の程度や再犯可能性が低いことなどを示す客観的証拠を収集します。これらの資料をもとに検察官と協議し、必要に応じて意見書を提出します。検察官に「社会内で更生が可能である」という印象を与え、処罰の必要がないと判断されれば、不起訴処分の可能性が高まります。

否認事件(被疑事実を認めていない事件)の場合

本人からの聞き取りを十分に行ったうえで、現場の確認や被害者等の事件関係者からの聴取、防犯カメラ映像の保全などを通じて、本人にとって有利な証拠を集めることが不起訴処分獲得のために重要です。
こうした活動により、暴行の事実が存在しないこと、故意がなかったこと、または正当防衛(刑法第36条第1項)が成立することなどを主張していきます。


さらに、捜査機関の手続きに違法や不備がないかを検討し、違法収集証拠の排除(証拠物の収集過程に違法があれば、証拠として認められない)や手続違反の指摘を行うこともあります。

いずれの場合でも、早期に弁護士が関与し、証拠保全や交渉を開始することが不起訴処分獲得の鍵となります。

起訴後の弁護活動

起訴後の弁護活動のポイントは、保釈請求公判の準備です。

保釈請求は、起訴後に勾留状態から解放させるために行う手続きです。ご本人の心身への負担を軽減するために原則として必ず行います。逮捕時から起算すると3週間以上身体拘束されていることが多く、心身への負担は甚大ですから、早期にこれを解く必要があります。


保釈されれば自宅にて生活できますので、裁判に向けた準備もしやすくなります。

執行猶予判決を目指すには、勾留されている状態で「真面目に再出発をしたい」と伝えるよりも、現に社会復帰して真面目に励んでいる状況を裁判官に伝える方が説得力を持ちます。
保釈を認めさせるために、法令に規定された保釈されない事由がないこと(刑事訴訟法第89条)、勾留する必要性がないこと(刑事訴訟法第90条)等を検討し、保釈請求書を提出します。

公判の準備として重要なのは、証拠資料等の検討と綿密な打ち合わせです。

犯罪の成立を争うのか、成立は争わずに情状面をアピールして執行猶予判決の獲得を目指すのかなど、具体的な防御方針を定めて対応していきます。

まとめ

暴行罪は、行為の態様や状況によって成立の可否が分かれる繊細な犯罪類型です。暴行の事実があるか否か、有形力の行使が不法かどうか、正当防衛に該当するかなど、法的評価には専門的な検討が必要です。
また、暴行罪は不起訴となる可能性も十分にあるため、早期に弁護士へ相談し、証拠保全や示談交渉、公判準備などを適切に進めることが、本人の権利保護と社会復帰に直結します。
刑事事件においては、事実関係の整理と法的主張の構築、そして人間的な背景の理解と表現が不可欠です。弁護士と連携しながら、冷静かつ戦略的に対応することが、最良の結果を導くことになります。